|様《さま》異《こと》なる人の丈いと高く痩せ衰へて凄まじく骨立ちたるが、此方に向ひて蕭然《せうぜん》と佇《たゝず》めり。素より生死の際に工夫修行をつみたる僧なれば恐ろしとも見ず、円位と呼ばれしは抑《そも》何人にておはすや、と尋ぬれば、嬉しくも詣で来つるものよ、我を誰とは尋ねずもあれ、末葉吹く嵐の風のはげしさに園生の竹の露こぼれける露の身ぞ、よく訪《と》ひつるよ、と聞え玉ふ。あら情無や勿体なしや、さては院の御霊《みたま》の猶此|土《ど》をば捨てさせ玉はで、妄執の闇に漂泊《さすら》ひあくがれ、こゝにあらはれ玉ひし歟、あら悲しや、と地に伏して西行涙をとゞめあへず。
さりとてはいかに迷はせ玉ふや、濁穢《ぢよくゑ》の世をば厭ひ捨て玉ひつることの尊くも有難くおぼえて、いさゝか随縁法施《ずゐえんほふせ》したてまつりしに、六慾の巷にふたゝび現形《げんぎやう》し玉ふは、いとかしこくも口惜き御心に侍り、仮現《けげん》の此|界《さかひ》にてこそ聖慮安らけからぬ節もおはしつれ、不堅如聚沫《ふけんによじゆまつ》の御身を地水火風にかへし玉ひつる上は、旋転如車輪《せんでんによしやりん》の御心にも和合動転を貪り玉は
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