試みむはだか道中
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小樽《おたる》に名高きキトに宿りて、夜涼《やりょう》に乗じ市街を散歩するに、七夕祭《たなばたまつり》とやらにて人々おのおの自己《おの》が故郷の風《ふう》に従い、さまざまの形なしたる大行燈《おおあんどう》小行燈に火を点じ歌い囃《はや》して巷閭《こうりょ》を引廻《ひきま》わせり。町幅一杯《まちはばいっぱい》ともいうべき竜宮城《りゅうぐうじょう》に擬《ぎ》したる大燈籠《おおどうろう》の中に幾《いく》十の火を点ぜるものなど、火光美しく透《す》きて殊《こと》に目ざましく鮮《あざ》やかなりし。
二十六日、枝幸丸《えさしまる》というに乗りて薄暮《はくぼ》岩内港《いわないみなと》に着きぬ。この港はかつて騎馬《きば》にて一遊せし地なれば、我が思う人はありやなしや、我が面を知れる人もあるなれど、海上|煙《けむ》り罩《こ》めて浪《なみ》もおだやかならず、夜の闇《くら》きもたよりあしければ、船に留《とど》まることとして上陸せず。都鳥に似たる「ごめ」という水禽《みずとり》のみ、黒み行く浪の上に暮《く》れ残りて白く見ゆるに、都鳥も忍《しの》ばしく、父母すみたもう方
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