東西伊呂波短歌評釈
幸田露伴

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)頗《すこぶ》る

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)今猶|頗《すこぶ》る

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、底本のページと行数)
(例)※[#「口+劇のへん」、読みは「きょ」、第3水準1−15−24]

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)いや/\
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 東京と西京とは、飲食住居より言語風俗に至るまで、今猶|頗《すこぶ》る相異なるものあり。それも、やがては同じきに帰す可けれど、こゝしばらくは互に移らざらむ歟。そは兎まれ角まれ、小児の年の初に用ゐて遊ぶ骨牌子《かるた》に記されたる伊呂波短歌などいふも、東京のと西京のとは、いたく異なりて、其の同じきものは四十八枚中わづかに二三枚に過ぎざるぞおもしろき。今試に東西に行はるゝところのものを取りて之を比較せん。
東 狗《いぬ》も歩けば棒にあたる
西 いや/\三盃
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 東のは、事を為すものは思はぬ災を受くることありといふ意、又は其の反対に、才無き者も能く勤むれば幸を得ること有りといふの意にして、西のは、其の語の用ゐらるゝ場合不明なれども、既に人の客たれば、いや/\ながらも三盃を斟むべし、といふ意か、いや/\三盃又三杯とつゞけてもいふことあれば、薄※[#二の字点、1−2−22]《はく/\》の酒を酌むに、いや/\ながらも杯を重ぬれば、其の中にはおのづから酔ひて之を楽むに至るといふことを云へるか、或は又虚礼謙譲の陋《いや》しきを笑へる意の諺なるべし。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 論より証拠
西 論語読みの論語知らず
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 東のは寸鉄人を殺すの語、西のは冷罵骨に入るの句なり。
[#ここで字下げ終わり、小さい活字も終わり]
東 花より団子
西 針の孔から天
[#ここから2字下げ、小さい活字]
 東のは徒美《とび》の益なく、実効の尊ぶべきを云ひ、西のは小を以て大を尽す可からざることを云へるにて、東京の、よの字の短語「よしの髄より天」といへると其の意おなじ。古は西のは、「八十の手習」といへるなりしとか。
[#ここで字下げ終わり、
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