つた。内田不知庵はその「おもしろい」について、何か不知庵流の説を出したが、それは今忘れた。たゞし君は不思議な才能を有してゐた。自分と共に景色が好いでも何でもない東京近郊を遊歩してゐると、一寸スケッチにかゝることなどが有つた。自分は、何だ、つまらない、と思ふ。ところが君が注意したところは、たとひそこが杜といふほどでも無い痩樹が五六本生えて、田舍細工のつまらぬ小祠があるに過ぎぬといふやうな平※[#二の字点、1−2−22]凡※[#二の字点、1−2−22]の有觸れたものでも、成程、斯樣看れば面白く無くもない、と思はれるのである。農村の老幼の風俗などでも、自分は何の氣もつかず看過《みすご》して終ふところを、おもしろいといはれて氣がついて看ると、成程一寸おもしろい、と思はれることが度※[#二の字点、1−2−22]有つた。
 淺草の年の市や、奧山の見せ物小屋の前などを通つて、群集の中からおもしろいものを見出して、或時君はみづからつか/\と近寄つて、その人物に對談などはじめる。何だらうと思つて、後で糺すと、君あの顏つきや音の出かたなどに氣がつかなかつたかい、隨分おもしろかつたぢや無いか、といはれて、ハ
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