實にも寫意にも筆法にも何にも拘らはずに描いたり、先史時代の土器のやうなものを造つたり、古風な家具を※[#「鹿/(鹿+鹿)」、第3水準1−94−76]樸な方法でこしらへたり、狹いところへ自然生の雜木に篠をあしらつて、田舍の野原の端か、塚原の末のやうな庭を作つたり、筆墨に親しんで日を送ることの多いにもかゝはらず甘泉宮や長樂未央の瓦でも何でも無い丸瓦の裏を硯にして使つてゐたり、室内の造作を薪のやうなもので手ごしらへに歪みなりに埒明けたりして、それで面白がつてゐたので、普通の人は畸人だと噂したものなのだ。しかしその異樣なる物の中に、人をして面白いと思はせることも勿論あつたのである。
何でも彼でも自分でして見たのであるが、「疊ばかりは別に面白いわけには行かなかつた」と或時語られたのを聽いたことがあつた。して見ると疊までも手製を試みたのかと驚かされた。手染め澁染の衣は、これは慥に畸人の大槻如電と相客になつた時、流石の如電先生もその澁臭いのに悲鳴を擧げさせられたといふ。
君は何でもない人が何でもない談をするのを聽いてゐても、時※[#二の字点、1−2−22]、おもしろい、といふのが癖のやうなものだつた。内田不知庵はその「おもしろい」について、何か不知庵流の説を出したが、それは今忘れた。たゞし君は不思議な才能を有してゐた。自分と共に景色が好いでも何でもない東京近郊を遊歩してゐると、一寸スケッチにかゝることなどが有つた。自分は、何だ、つまらない、と思ふ。ところが君が注意したところは、たとひそこが杜といふほどでも無い痩樹が五六本生えて、田舍細工のつまらぬ小祠があるに過ぎぬといふやうな平※[#二の字点、1−2−22]凡※[#二の字点、1−2−22]の有觸れたものでも、成程、斯樣看れば面白く無くもない、と思はれるのである。農村の老幼の風俗などでも、自分は何の氣もつかず看過《みすご》して終ふところを、おもしろいといはれて氣がついて看ると、成程一寸おもしろい、と思はれることが度※[#二の字点、1−2−22]有つた。
淺草の年の市や、奧山の見せ物小屋の前などを通つて、群集の中からおもしろいものを見出して、或時君はみづからつか/\と近寄つて、その人物に對談などはじめる。何だらうと思つて、後で糺すと、君あの顏つきや音の出かたなどに氣がつかなかつたかい、隨分おもしろかつたぢや無いか、といはれて、ハ
前へ
次へ
全3ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング