商う傍、貸本屋を渡世にして居ました。ところが此処は朝夕学校への通り道でしたから毎日のように遊びに寄って、種々の読本の類を引ずり出しては、其絵を見るのと絵解を聞くのを楽しみにしました。勿論草双紙の類は其前から読み初めました。初めの中は変な仮名文字だから読み苦くって弱りましたが、段々読むに慣れてスラスラと読めるようになった。それから後は親類の家などへ往って、児雷也物語とか弓張月とか、白縫物語、田舎源氏、妙々車などいうものを借りて来て、片端から読んで一人で楽んで居た。併し何歳頃から草双紙を読み初めたかどうも確かにはおぼえません、十一位でしたろうか。此頃のことでした、観行院様にお前は何を仕て居たいかと問われたとき、芋を喰って本を読んで居ればそれで沢山だと答えたそうですが、芋ぐらいが好物であったと見えます、ハハハハ。猶学校友達の中に清川というのがありました。これは少し私より年長《としうえ》で、家は蒔絵職でした。仲の好い友達でしたから折々遊びにもゆきましたが、これが読本を家で読んで来ては、学校の休息時間に細川や私なぞに九紋龍史進、豹子頭林冲などという談しを仕て聞かせたのでした。
 前に申したように
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