ったが、実に愉快で堪えられないほどの事におもって居たのです。
家庭は世の常を越えて厳重でありましたが、確にこれは私の益になったに相違無いです。別に家庭の教育などという論は無い頃のことでしたが、先ず毎日々々復習を為し了らなければ遊べぬということと、朝は神仏祖先に対して為《す》るだけの事を必ず為る、また朝夕は学校の事さえ手すきならば掃除雑巾がけを為るということと、物を粗末にしてはならぬという事とで責め立てられたのは、私の幸福になったに相違ないと思います。また観行院様は至って注意深い方で、例えば星は四時地位の定まらないものであるのに一寸|戸外《そと》へ出て天《そら》を仰いで星を御覧になると、ああ彼星が彼辺に在るから最う何時であるなぞと、ちゃんと時を知って居られた。そういう調子であったから子供心にも時々驚いて服した。また植物にしても左様である、庭の雑草などの名や効能なんぞを教えて下すった事が幾度もある。私の注意力はたしかに其為に養われて居るかと思います。
小学校を了えて後は一年ばかり中学校を修めたが、それも廃めて英学を修める傍、菊地松軒という先生に就《つい》て漢学を修めました。併し最うそれ
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