円の弗箱から一万円出したつて五万円出したつて、比例をして見れば其人に取つて実は大金では無い、些少の喜悦税、高慢税といふべきものだ。そして其の高慢税は所得税などと違つて、政府へ納められて盗賊役人だかも知れない役人の月給などになるのでは無く、直に骨董屋さんへ廻つて世間に流通するのであるから、手取早く世間の融通を助けて、いくらか景気をよくしてゐるのである。野暮でない、洒落切つた税といふもので、いや/\出す税や、督促を食つた末に女房の帯を質屋へたゝき込んで出す税とは訳が違ふ金なのだから、同じ税でも所得税なぞは、道成寺では無いが、かねに恨が数※[#二の字点、1−2−22]ござる、思へば此のかね恨めしやの税で、此方の高慢税の如きは、金と花火は飛出す時光る、花火のやうに美しい勢の好い税で、出す方も、ソレ五万両、やすいものだ、と欣※[#二の字点、1−2−22]《にこ/\》として投出す、受取る方も、ハッ五万円、先づ此位のものをお納めして置きますれば私も鼻が高うございますると欣※[#二の字点、1−2−22]して受取る。悪い心持のする景色では有るまい。誰だつて高慢税は出したからうでは無いか。自分も高慢税は沢
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