、耶蘇の血が染みてゐる十字架の切れ端などといふものを買込んで、どんなものだいと反身になるのもマンザラ悪くは有るまいかも知らぬ。
 骨董いぢりは実にオツである、イキである。おもしろいに違ひ無い、高尚に違ひ無い、そして有意義に違ひない、そして場合によつては個人のため社会のためになる事も有るに違ひ無い。自分なぞも資産家でさへあれば屹度すばらしい贋物《がんぶつ》や贋筆を買込で大ニコ/\であるに疑ひ無い。骨董を買ふ以上は贋物を買ふまいなんぞといふ其様なケチな事で何様なるものか、古人も死馬の骨を千金で買ふとさへ云つてあるでは無いか。仇十州の贋筆は凡そ二十階級ぐらゐあるといふ談だが、して見れば二十度贋筆を買ひさへすれば卒業して真筆が手に入るのだから、何の訳は無いことだ。何だつて月謝を出さなければ物事はおぼえられない。贋物贋筆を買ふのは月謝を出すのだから、少しも不当の事では無い。扨月謝を沢山出した挙句に、いよ/\真物真筆を大金で買ふ。嬉しいに違ひ無い、自慢をしても可いに違ひ無い。嬉しがる、自慢をする。其の大金は喜悦税だ、高慢税だ。大金と云つたつて、十円の蝦蟇口から一円出すのは其人に取つて大金だが、千万
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