すか」と云つた。そこで趙は堪へかねて笑ひ出して、「何と仰《おつし》あります、唐氏の定鼎は方鼎ではございませぬ、円鼎で、足は三つで、方鼎と仰あるが、それは何で」と答へた。季因是はこれを聴くと怫然として奥へ入つて了つて久しく出て来なかつた。趙再思は仕方無しに俟つてゐると、暮方になつて漸く季は出て来て、余怒猶ほ色に在るばかりで、「自分に方鼎を売付けた王廷珸といふ奴めは人を馬鹿にした憎い奴、南科の屈静源は自分が取立てたのですから、今書面を静源に遣はしました。静源は自分の為に此の一埒を明けて呉れませう」といふことであつた。果して屈静源は有司に属して追理しようとしたから、王廷珸は大しくじりで、一目散に姿を匿して仕舞つて、人をたのんで詫を入れ、別に偽物などを贈つて、やつと牢獄《らうや》へ打込まれるのを免れた。
談はこれだけで済んでも、可なり可笑味も有り憎味も有つて沢山なのであるが、まだ続くから愈ゝ変なものだ。延珸の知合に黄※[#二の字点、1−2−22]石、名は正賓といふものがあつた。廷珸と同じ徽州《きしう》のもので、親類つゞきだなど云つてゐたが、此男は※[#「てへん+晉」、第3水準1−84−87]
前へ
次へ
全43ページ中37ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング