は実は贋鼎である。真の定鼎はまだ此方に蔵してあるので、それは太常公の戒に遵《したが》つて軽※[#二の字点、1−2−22]しく人に示さぬことになつてゐるから御視せ申さなかつたのである。然るに君が既に千金を捐《す》てゝ贋品を有つてゐるといふことになると、君は知らなくても自分は心に愧ぢぬといふ訳にはゆかぬでは無いか。何様か彼の鼎を還して下さい、千金は無論御返しするから」と理解させたのである。ところが世間に得て有るところの例で、品物を売る前には金が貴く思へて品物を手放すが、手放して了ふと其物の無いのが淋しくなり、それに未練が出て取返したくなるものである。杜九如の方ではテッキリそれだと思つたから、贋物だつたなぞといふのは口実だと考へて、約束変改をしたいのが本心だと見た。そこで、「何様いたしまして。あの様な贋物が有るものではございますまい。仮令贋物にしましたところで、手前の方では結構でございます、頂戴致して置きまして後悔はございません」とやり返した。「そんなに此方の言葉を御信用が無いならば、二つの鼎を列べて御覧になつたらば如何です」と一方は云つたが、それでも一方は信疑相半して、「当方は何様しても頂
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