」と問うた。すると丹泉は莞爾《につこ》と笑つて、「此の鼎は実は貴家から出たのでござりまする。嘗て貴堂に於て貴鼎を拝見しました時、拙者は其の大小軽重|形貌《けいばう》精神、一切を挙げて拙者の胸中に了※[#二の字点、1−2−22]と会得しました。そこで実は倣《なら》つて之を造りましたので、有り体に申します、貴台を欺くやうなことは致しませぬ」と云つた。丹泉は元来|毎※[#二の字点、1−2−22]《つね/″\》江西の景徳鎮《けいとくちん》へ行つては、古代の窯器の佳品の模製を良工に指図しては作らせて、そして所謂掘出し好きや、比較的低い銭で高い物を買はうとする慾張りや、訳も分らぬ癖に金銭づくで貴い物を得ようとする耳食者流の目をまはさせて居たもので、其の製作は款紋色沢、すべて咄※[#二の字点、1−2−22]として真に逼つたものであつたのである。恐ろしい人も有つたもので、明の頃に既に斯様いふ人が有つたのであるから、今日でも此人の造らせた模品が北定窯だの何だのと云つて何処かの家に什襲珍蔵されて居ぬとは限るまい。扨、周の談を聞いて太常は又今頃に歎服した。で、「それならば此の新鼎は自分に御譲りを願ふ、真品と
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