ふ奇品に面した眼福を喜び謝したりして帰つた。そしてまた舟を出して自分の旅路に上つてしまつた。
 それから半歳余り経《たつ》た頃、また周丹泉が唐太常をおとづれた。そして丹泉は意気安閑として、過ぐる日の礼を述べた後、「御秘蔵のと同じやうな白定鼎をそれがしも手に入れました」と云つた。唐太常は吃驚した。天下一品と誇つてゐたものが他所にも有つたといふのだからである。で、「それならば其品を視せて下さい」といふと、丹泉は携へて来てゐたのであるから、異議なく視せた。唐は手に取つて視ると、大きさから、重さから、骨質から、釉色《いうしよく》の工合から、全く吾が家のものと寸分|達《たが》はなかつた。そこで早速自分の所有のを出して見競べて視ると、兄弟が※[#「戀」の「心」に代えて「子」、第4水準2−5−91]生《ふたご》か、いづれをいづれとも言ひかねるほど同じものであつた。自分のの蓋を丹泉の鼎に合せて見ると、しつくりと合する。台座を合せて見ても、又それが為に造つたもののやうにぴたりと合ふ。愈※[#二の字点、1−2−22]驚いた太常は溜息を吐かぬばかりになつて、「して君の此の定鼎は何様いふところからの伝来である
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