。今此の波瀾重畳険危な骨董世界の有様を想見するに足りる談を一寸示さう。但しいづれも自分が仮設したので無い、出処は有るのである。所謂「出」は判然《はつきり》してゐるので、御所望ならば御明かし申して宜しいのです。ハヽヽ。
 これは二百年近く古い書に見えてゐる談である。京都は堀川に金八といふ聞えた道具屋があつた。此の金八が若い時の事で、親父にも仕込まれ、自分も心の励みの功を積んだので、大分に眼が利いて来て、自分ではもう内※[#二の字点、1−2−22]、仲間の者にもヒケは取らない、立派な一人前の男になつた積りでゐる。実際また何から何までに渡つて、随分に目も届けば気も働いて、もう親父から店を譲られても、取りしきつて一人で遣つて行かれるほどに成つてゐたのである。併し何家《どこ》の老人《としより》も同じ事で、親父は其の老成の大事取りの心から、且は有余る親切の気味から、まだ/\位に思つてゐた事であらう、依然として金八の背後《うしろ》に立つて保護してゐた。
 金八が或時大阪へ下つた。其の途中深草を通ると、道に一軒の古道具屋があつた。そこは商買の事で、一寸一[#(ト)]眼見渡すと、時代蒔絵の結構な鐙《あぶ
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