いか。仇十州《きゅうじっしゅう》の贋筆は凡《およ》そ二十階級ぐらいあるという談《はなし》だが、して見れば二十度贋筆を買いさえすれば卒業して真筆が手に入るのだから、何の訳はないことだ。何だって月謝を出さなければ物事はおぼえられない。贋物贋筆を買うのは月謝を出すのだから、少しも不当の事ではない。さて月謝を沢山《たくさん》出した挙句《あげく》に、いよいよ真物真筆を大金で買う。嬉《うれ》しいに違いない、自慢をしてもよいに違いない。嬉しがる、自慢をする。その大金は喜悦《きえつ》税だ、高慢税だ。大金といったって、十円の蝦蟇口《がまぐち》から一円出すのはその人に取って大金だが、千万円の弗《ドル》箱から一万円出したって五万円出したって、比例をして見ればその人に取って実は大金ではない、些少《さしょう》の喜悦税、高慢税というべきものだ。そしてその高慢税は所得税などと違って、政府へ納められて盗賊《どろぼう》役人だかも知れない役人の月給などになるのではなく、直《すぐ》に骨董屋さんへ廻って世間に流通するのであるから、手取早《てっとりばや》く世間の融通を助けて、いくらか景気をよくしているのである。野暮でない、洒落
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