下さいというと、廷珸は承知して一幅を返した。一幅は何も彼《か》も異《ことな》ってはいなかった。しかし仏元は隠しじるしのあり処《どころ》についてその有無を査《しら》べた。不思議や主人の花押は影も形もなかった。ないはずである、廷珸が今渡したものは正《まさ》しく※[#「暮」に「日」に代えて「手」、第3水準1−84−88]品なのであるもの。
仏元はさてこそと腹の中でニヤリと笑った。ところでこの男がまた真剣|白刃取《しらはど》りを奉書《ほうしょ》の紙一枚で遣付《やりつ》けようという男だったから、これは怪しからん、模本贋物を御渡しになるとは、と真正面からこちらの理屈の木刀を揮《ふる》って先方の毒悪の真剣と切結ぶような不利なことをする者ではなかった。何でもない顔をして模本の雲林を受取った。敵の真剣を受留めはしないで、澄まして体《たい》を交《か》わして危気《あぶなげ》のないところに身を置いたのである。そしてこういうことを言った。「主人はただ私《わたくし》に画を頂戴して参れとばかりではなく、こちらの定窯鼎をお預かり致してまいれ、御直段《おねだん》の事はいずれ御相談致しますということで」といった。定鼎の
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