ほどに用いられた人もなく、また利休ほどに一世の趣味を動かして向上進歩せしめた人もない。利休は実に天仙《てんせん》の才である。自分なぞはいわゆる茶の湯者流の儀礼などは塵《ちり》ばかりも知らぬ者であるけれども、利休がわが邦《くに》の趣味の世界に与えた恩沢は今に至《いたっ》てなお存して、自分らにも加被《かひ》していることを感じているものである。かほどの利休を秀吉が用いたのは実にさすがに秀吉である。利休は当時において言わず語らずの間に高慢税査定者とされたのである。
利休が佳《か》なりとした物を世人は佳なりとした。利休がおもしろいとし、貴しとした物を、世人はおもしろいとし、貴しとした。それは利休に一毫《いちごう》のウソもなくて、利休の佳とし、おもしろいとし、貴しとした物は、真に佳なるもの、真におもしろい物、真に貴い物であったからである。利休の指点したものは、それが塊然《かいぜん》たる一陶器であっても一度その指点を経《ふ》るや金玉ただならざる物となったのである。勿論利休を幇《たす》けて当時の趣味の世界を進歩させた諸星の働きもあったには相違ないが、一代の宗匠として利休は恐ろしき威力を有して、諸星を
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