の事でもないか知らぬが、一方から観れば天下を茶の煙りに巻いて、大煽りに煽ったもので、高慢競争をさせたようなものだ。さてまた当時において秀吉の威光を背後に負いて、目眩《まばゆ》いほどに光り輝いたものは千利休《せんのりきゅう》であった。勿論利休は不世出の英霊漢である。兵政の世界において秀吉が不世出の人であったと同様に、趣味の世界においては先ず以《もっ》て最高位に立つべき不世出の人であった。足利《あしかが》以来の趣味はこの人によって水際立《みずぎわだ》って進歩させられたのである。その脳力も眼力も腕力も尋常一様の人ではない。利休以外にも英俊は存在したが、少※[#二の字点、1−2−22]は差があっても、皆大体においては利休と相《あい》呼応し相《あい》追随した人※[#二の字点、1−2−22]であって、利休は衆星の中に月の如く輝き、群魚を率いる先頭魚となって悠然としていたのである。秀吉が利休を寵用したのはさすが秀吉である。足利氏の時にも相阿弥《そうあみ》その他の人※[#二の字点、1−2−22]、利休と同じような身分の人※[#二の字点、1−2−22]はあっても、利休ほどの人もなく、また利休が用いられた
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