るという噂を聞いた。虚談ではないらしい。日本でも時※[#二の字点、1−2−22]飛んでもないことをする者があって、先年西の方の某国で或る貴い塋域《えいいき》を犯した事件というのが伝えられた。聞くさえ忌わしいことだが、掘出し物という語は無論こういう事に本《もと》づいて出来た語だから、いやしくも普通人的感情を有している者の使うべきでも思うべきでもない語であり事である。それにも関わらず掘出し物根性の者が多く、蚤取《のみと》り眼《まなこ》、熊鷹目《くまたかめ》で、内心大掘出しをしたがっている。人が少し悪い代りに虫が大《おおい》に好い談《はなし》である。そういう人間が多いから商売が険悪になって、西の方で出来たイカサマ物を東の方の田舎へ埋《う》めて置いて、掘出し党に好い掘出しをしたつもりで悦ばせて、そして釣鉤《つりばり》へ引掛《ひっか》けるなどという者も出て来る。京都|出来《でき》のものを朝鮮へ埋めて置いて、掘出させた顔で、チャンと釣るなぞというケレン商売も始まるのである。もし真に掘出しをする者があれば、それは無頼溌皮《ぶらいはっぴ》の徒でなければならぬ。またその掘出物を安く買って高く売り、その間《かん》に利を得る者があれば、それは即ち営業税を払っている商売人でなければならぬ。商売人は年期を入れ資本を入れ、海千山千の苦労を積んでいるのである。毎日※[#二の字点、1−2−22]※[#二の字点、1−2−22]真剣勝負をするような気になって、良い物、悪い物、二番手、三番手、いずれ結構|上※[#二の字点、1−2−22]《じょうじょう》の物は少い世の中に、一[#(ト)]眼|見損《みそこな》えば痛手を負わねばならぬ瀬に立って、いろいろさまざまあらゆる骨董相応の値ぶみを間違わず付けて、そして何がしかの口銭を得ようとするのが商売の正しい心掛《こころがけ》である。どうして油断も隙《すき》もなりはしない。波の中に舟を操っているようなものである。波瀾重畳《はらんちょうじょう》がこの商買の常である。そこへ素人《しろうと》が割込んだとて何が出来よう。今この波瀾重畳険危な骨董世界の有様を想見《そうけん》するに足りる談《はなし》をちょっと示そう。但しいずれも自分が仮設《かせつ》したのでない、出処《しゅっしょ》はあるのである。いわゆる「出《で》」は判然《はっきり》しているので、御所望ならば御明かし申して宜《よ
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