せぬといふにはあらざれど、のつそりもまた一[#(ト)]気性、他の巾着で我が口濡らすやうな事は好まず、親方まことに有り難うはござりまするが、御親切は頂戴《いたゞ》いたも同然、これは其方に御納めを、と心は左程に無けれども言葉に膠《にべ》の無さ過ぎる返辞をすれば、源太大きに悦ばず。此品《これ》をば汝は要らぬと云ふのか、と慍《いかり》を底に匿して問ふに、のつそり左様とは気もつかねば、別段拝借いたしても、と一句|迂濶《うつか》り答ふる途端、鋭き気性の源太は堪らず、親切の上親切を尽して我が智慧思案を凝らせし絵図まで与らむといふものを、無下に返すか慮外なり、何程|自己《おのれ》が手腕の好て他の好情《なさけ》を無にするか、そも/\最初に汝《おのれ》めが我が対岸へ廻はりし時にも腹は立ちしが、じつと堪へて争はず、普通大体《なみたいてい》のものならば我が庇蔭《かげ》被《き》たる身をもつて一つ仕事に手を入るゝか、打擲いても飽かぬ奴と、怒つて怒つて何にも為べきを、可愛きものにおもへばこそ一言半句の厭味も云はず、唯※[#二の字点、1−2−22]自然の成行に任せ置きしを忘れし歟、上人様の御諭しを受けての後も分別に分
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