き、我にあつては要なき此品《これ》の、一ツは面倒な材木《きしな》の委細《くはし》い当りを調べたのやら、人足軽子其他|種※[#二の字点、1−2−22]《さま/″\》の入目を幾晩かかゝつて漸く調べあげた積り書、又一ツは彼所《あすこ》を何して此所《こゝ》を斯してと工夫に工夫した下絵図、腰屋根の地割だけなもあり、平地割だけなのもあり、初重の仕形だけのもあり、二手先または三手先、出組《だしぐみ》ばかりなるもあり、雲形波形唐草|生類彫物《しやうるゐほりもの》のみを書きしもあり、何より彼より面倒なる真柱から内法《うちのり》長押《なげし》腰長押切目長押に半長押、椽板椽かつら亀腹柱高欄垂木|桝《ます》肘木《ひぢき》、貫《ぬき》やら角木《すみぎ》の割合算法、墨縄《すみ》の引きやう規尺《かね》の取り様余さず洩さず記せしもあり、中には我の為しならで家に秘めたる先祖の遺品《かたみ》、外へは出せぬ絵図もあり、京都《きやう》やら奈良の堂塔を写しとりたるものもあり、此等は悉皆《みんな》汝に預くる、見たらば何かの足しにもなろ、と自己《おの》が精神《こゝろ》を籠めたるものを惜気もなしに譲りあたふる、胸の広さの頼母しきを解
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