、客に酒をば亀の子ほど飲まする蓬莱屋の裏二階に、気持の好ささうな顔して欣然と人を待つ男一人。唐桟《たうざん》揃ひの淡泊《あつさり》づくりに住吉張の銀煙管おとなしきは、職人らしき侠気《きほひ》の風の言語《ものいひ》挙動《そぶり》に見えながら毫末《すこし》も下卑《げび》ぬ上品|質《だち》、いづれ親方※[#二の字点、1−2−22]※[#二の字点、1−2−22]と多くのものに立らるゝ棟梁株とは、予てから知り居る馴染のお傳といふ女が、嘸《さぞ》お待ち遠でござりませう、と膳を置つゝ云ふ世辞を、待つ退屈さに捕《つかま》へて、待遠で/\堪りきれぬ、ほんとに人の気も知らないで何をして居るであらう、と云へば、それでもお化粧《しまひ》に手間の取れまするが無理は無い筈、と云ひさしてホヽと笑ふ慣れきつた返しの太刀筋。アハヽヽそれも道理《もつとも》ぢや、今に来たらば能く見て呉れ、まあ恐らく此地辺《こゝら》に類は無らう、といふものだ。阿呀《おや》恐ろしい、何を散財《おご》つて下さります、而《そ》して親方、といふものは御師匠さまですか。いゝや。娘さんですか。いゝや。後家様。いゝや。お婆さんですか。馬鹿を云へ可愛想に。
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