梟《ふくろ》に似た眼で我《ひと》の顔を見詰め、あゝ清吉あーにーいかと寝惚声の挨拶、やい、汝《きさま》は大分好い男児《をとこ》になつたの、紺屋《こうや》の干場へ夢にでも上《のぼ》つたか大層高いものを立てたがつて感応寺の和尚様に胡麻を摺り込むといふ話しだが、其は正気の沙汰か寝惚けてかと冷語《ひやかし》を驀向《まつかう》から与《や》つたところ、ハヽヽ姉御、愚鈍《うすのろ》い奴といふものは正直ではありませんか、何と返事をするかとおもへば、我《わし》も随分骨を折つて胡麻は摺つて居るが、源太親方を対岸に立てゝ居るので何《どう》も胡麻が摺りづらくて困る、親方がのつそり汝《きさま》為《やつ》て見ろよと譲つて呉れゝば好いけれどものうとの馬鹿に虫の好い答へ、ハヽヽ憶ひ出しても、心配相に大真面目くさく云つた其面が可笑くて堪りませぬ、余り可笑いので憎気《にくつけ》も無くなり、箆棒《べらぼう》めと云ひ捨てに別れましたが。其限《それぎ》りか。然《へい》。左様かへ、さあ遅くなる、関はずに行くがよい。左様ならと清吉は自己《おの》が仕事におもむきける、後はひとりで物思ひ、戸外《おもて》では無心の児童《こども》達が独楽戦
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