も好といふものだと心付けて下すつた其時は、嗚呼何様して此様《こんな》に仁慈《なさけ》深かろと有難くて有難くて私は泣きました、鐵に謝罪る訳は無いが親方の一言に堪忍《がまん》して私も謝罪に行きましたが、それから異《おつ》なもので何時となく鐵とは仲好になり、今では何方にでも万一《ひよつと》したことの有れば骨を拾つて遣らうか貰はうかといふ位の交際《つきあひ》になつたも皆親方の御蔭、それに引変へ茶袋なんぞは無暗に叱言を云ふばかりで、やれ喧嘩をするな遊興《あそび》をするなと下らぬ事を小五月蠅く耳の傍《はた》で口説きます、ハヽヽいやはや話になつたものではありませぬ、ゑ、茶袋とは母親《おふくろ》の事です、なに酷くはありませぬ茶袋で沢山です、然も渋をひいた番茶の方です、あッハヽヽ、ありがたうござります、もう行きませう、ゑ、また一本|燗《つけ》たから飲んで行けと仰るのですか、あゝありがたい、茶袋だと此方で一本といふところを反対《あべこべ》にもう廃せと云ひますは、あゝ好い心持になりました、歌ひたくなりましたな、歌へるかとは情ない、松づくしなぞは彼奴に賞められたほどで、と罪の無いことを云へばお吉も笑ひを含むで
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