情無い親方様、二人で為うとは情無い、十兵衞に半分仕事を譲つて下されうとは御慈悲のやうで情無い、厭でござります、厭でござります、塔の建てたいは山※[#二の字点、1−2−22]でも既《もう》十兵衞は断念《あきらめ》て居りまする、御上人様の御諭《おさとし》を聞いてからの帰り道すつぱり思ひあきらめました、身の程にも無い考を持つたが間違ひ、嗚呼私が馬鹿でござりました、のつそりは何処迄ものつそりで馬鹿にさへなつて居れば其で可い訳、溝板でもたゝいて一生を終りませう、親方様|堪忍《かに》して下され我《わたし》が悪い、塔を建てうとは既《もう》申しませぬ、見ず知らずの他の人ではなし御恩になつた親方様の、一人で立派に建てらるゝを余所《よそ》ながら視て喜びませう、と元気無げに云ひ出づるを走り気の源太|悠※[#二の字点、1−2−22]《ゆるり》とは聴て居ず、ずいと身を進て、馬鹿を云へ十兵衞、余り道理が分らな過ぎる、上人様の御諭は汝《きさま》一人に聴けといふて為《なさ》れたではない我が耳にも入れられたは、汝の腹でも聞たらば我の胸で受取つた、汝一人に重石《おもし》を背負つて左様沈まれて仕舞ふては源太が男になれるかや
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