出したやうな性質《もちまへ》が為する返答なればとて、十兵衞厭でござりまするとは余りなる挨拶、他《ひと》の情愛《なさけ》の全で了らぬ土人形でも斯は云ふまじきを、さりとては恨めしいほど没義道な、口惜いほど無分別な、如何すれば其様に無茶なる夫の了見と、お浪は呆れもし驚きもし我身の急に絞木にかけて絞《しめ》らるゝ如き心地のして、思はず知らず夫にすり寄り、それはまあ何といふこと、親方様が彼程に彼方此方のためを計つて、見るかげもない此方連《このはうづれ》、云はゞ一[#(ト)]足に蹴落して御仕舞ひなさるゝことも為さらば成《でき》る此方連に、大抵ではない御情をかけて下され、御自分一人で為さりたい仕事をも分与《わけ》て遣らう半口乗せて呉れうと、身に浸みるほどありがたい御親切の御相談、しかも御招喚《およびつけ》にでもなつてでのことか、坐蒲団さへあげることの成らぬ此様なところへ態※[#二の字点、1−2−22]|御来臨《おいで》になつての御話し、それを無にして勿体ない、十兵衞厭でござりまするとは冥利の尽きた我儘勝手、親方様の御親切の分らぬ筈は無からうに胴慾なも無遠慮なも大方|程度《ほどあひ》のあつたもの、これ
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