2−22]に口を開かん便宜《よすが》なく、暫時は静まりかへられしが、源太十兵衞ともに聞け、今度建つべき五重塔は唯一ツにて建てんといふは汝達二人、二人の願ひを双方とも聞き届けては遣りたけれど、其は固より叶ひがたく、一人に任さば一人の歎き、誰に定めて命《いひつ》けんといふ標準《きめどころ》のあるではなし、役僧用人等の分別にも及ばねば老僧《わし》が分別にも及ばぬほどに、此分別は汝達の相談に任す、老僧は関はぬ、汝達の相談の纏まりたる通り取り上げて与《や》るべければ、熟く家に帰つて相談して来よ、老僧が云ふべき事は是ぎりぢやによつて左様心得て帰るがよいぞ、さあ確と云ひ渡したぞ、既早《もはや》帰つてもよい、然し今日は老僧も閑暇《ひま》で退屈なれば茶話しの相手になつて少時居てくれ、浮世の噂なんど老衲に聞かせて呉れぬか、其代り老僧も古い話しの可笑なを二ツ三ツ昨日見出したを話して聞かさう、と笑顔やさしく、朋友《ともだち》かなんぞのやうに二人をあしらふて、扨何事を云ひ出さるゝやら。

       其九

 小僧《こばうず》が将《も》つて来し茶を上人自ら汲み玉ひて侑《すゝ》めらるれば、二人とも勿体ながりて恐
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