様、大工は出来ます、大隅流《おほすみりう》は童児《こども》の時から、後藤立川二ツの流義も合点致して居りまする、為《さ》せて、五重塔の仕事を私に為せていたゞきたい、それで参上《まゐり》ました、川越の源太様が積りをしたとは五六日前聞きました、それから私は寐ませぬは、御上人様、五重塔は百年に一度一生に一度建つものではござりませぬ、恩を受けて居ります源太様の仕事を奪《と》りたくはおもひませぬが、あゝ賢い人は羨ましい、一生一度百年一度の好い仕事を源太様は為るゝ、死んでも立派に名を残さるゝ、あゝ羨ましい羨ましい、大工となつて生てゐる生甲斐もあらるゝといふもの、それに引代へ此十兵衞は、鑿《のみ》手斧《てうな》もつては源太様にだとて誰にだとて、打つ墨縄の曲ることはあれ万が一にも後れを取るやうな事は必ず/\無いと思へど、年が年中長屋の羽目板《はめ》の繕ひやら馬小屋箱溝の数仕事、天道様が智慧といふものを我《おれ》には賜《くだ》さらない故仕方が無いと諦めて諦めても、拙《まづ》い奴等が宮を作り堂を受負ひ、見るものの眼から見れば建てさせた人が気の毒なほどのものを築造《こしら》へたを見るたびごとに、内※[#二の字
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