れ一生の面目とおもふて空《あだ》に悦びしも真に果敢無き少時《しばし》の夢、嵐の風のそよと吹けば丹誠凝らせし彼塔も倒れやせむと疑はるゝとは、ゑゝ腹の立つ、泣きたいやうな、それほど我は腑の無い奴《やつ》か、恥をも知らぬ奴《やつこ》と見ゆる歟、自己《おのれ》が為たる仕事が恥辱《はぢ》を受けてものめ/\面押拭ふて自己は生きて居るやうな男と我は見らるゝ歟、仮令ば彼塔倒れた時生きて居やうか生きたからう歟、ゑゝ口惜い、腹の立つ、お浪、それほど我が鄙《さも》しからうか、嗚呼※[#二の字点、1−2−22]※[#二の字点、1−2−22]生命も既《もう》いらぬ、我が身体にも愛想の尽きた、此世の中から見放された十兵衞は生きて居るだけ恥辱《はぢ》をかく苦悩《くるしみ》を受ける、ゑゝいつその事塔も倒れよ暴風雨も此上烈しくなれ、少しなりとも彼塔に損じの出来て呉れよかし、空吹く風も地《つち》打つ雨も人間《ひと》ほど我には情《つれ》無《な》からねば、塔|破壊《こは》されても倒されても悦びこそせめ恨はせじ、板一枚の吹きめくられ釘一本の抜かるゝとも、味気無き世に未練はもたねば物の見事に死んで退けて、十兵衞といふ愚魯漢《ばか
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