撥る。其の安心が左様手易くは出来ぬわい、と五月蠅云ふ。大丈夫でござりまする、と同じことをいふ。末には七藏焦れこむで、何でも彼でも来いといふたら来い、我の言葉とおもふたら違ふぞ圓道様爲右衞門様の御命令ぢや、と語気あらくなれば十兵衞も少し勃然《むつ》として、我は圓道様爲右衞門様から五重塔建ていとは命令かりませぬ、御上人様は定めし風が吹いたからとて十兵衞よべとは仰やりますまい、其様な情無い事を云ふては下さりますまい、若も御上人様までが塔危いぞ十兵衞呼べと云はるゝやうにならば、十兵衞一期の大事、死ぬか生きるかの瀬門《せと》に乗かゝる時、天命を覚悟して駈けつけませうなれど、御上人様が一言半句十兵衞の細工を御疑ひなさらぬ以上は何心配の事も無し、余の人たちが何を云はれうと、紙を材《き》にして仕事もせず魔術《てづま》も手抜もして居ぬ十兵衞、天気のよい日と同じことに雨の降る日も風の夜も楽※[#二の字点、1−2−22]として居りまする、暴風雨が怖いものでも無ければ地震が怖うもござりませぬと圓道様にいふて下され、と愛想なく云ひ切るにぞ、七藏仕方なく風雨の中を駈け抜けて感応寺に帰りつき圓道爲右衞門に此よし云へ
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