人様に恨まれるやうなことの無いやうに為ねばなりませぬ、とおろ/\涙になつての話し。始終を知らで一[#(ト)]筋に我子をおもふ老の繰言、此返答には源太こまりぬ。
其二十九
八五郎其所に居るか、誰か来たやうだ明けてやれ、と云はれて、なんだ不思議な、女らしいぞと口の中で独語《つぶやき》ながら、誰だ女嫌ひの親分の所へ今頃来るのは、さあ這入りな、とがらりと戸を引き退くれば、八《は》ッ様《さん》お世話、と軽い挨拶、提灯吹き滅《け》して頭巾を脱ぎにかゝるは、此盆にも此の正月にも心付して呉れたお吉と気がついて八五郎めんくらひ、素肌に一枚どてらの袵《まへ》広がつて鼠色《ねずみ》になりし犢鼻褌《ふんどし》の見ゆるを急に押し隠しなどしつ、親分、なんの、あの、なんの姉御だ、と忙しく奥へ声をかくるに、なんの尽しで分る江戸ッ児。応左様か、お吉来たの、能く来た、まあ其辺《そこら》の塵埃《ごみ》の無さゝうなところへ坐つて呉れ、油虫が這つて行くから用心しな、野郎ばかりの家は不潔《きたない》のが粧飾《みえ》だから仕方が無い、我《おれ》も汝《おまへ》のやうな好い嚊でも持つたら清潔《きれい》に為やうよ、ア
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