つて入口近きところに蹲まり、何やら云ひ出したさうな素振り、源太早くも大方察して老婆《としより》の心の中嘸かしと気の毒さ堪らず、余計な事仕出して我に肝煎らせし清吉のお先走りを罵り懲らして、当分出入ならぬ由云ひに鋭次がところへ行かんとせし矢先であれど、視れば我が子を除いては阿彌陀様より他に親しい者も無かるべき孱弱《かよわ》き婆のあはれにて、我清吉を突き放さば身は腰弱弓の弦《つる》に断れられし心地して、在るに甲斐なき生命ながらへむに張りも無く的も無くなり、何程か悲み歎いて多くもあらぬ余生を愚痴の涙の時雨に暮らし、晴※[#二の字点、1−2−22]とした気持のする日も無くて終ることならむと、思ひ遣れば思ひ遣るだけ憫然《ふびん》さの増し、煙草捻つてつい居るに、婆は少しくにぢり出で、夜分まゐりまして実に済みませんが、あの少しお願ひ申したい訳のござりまして、ハイ/\、既御存知でもござりませうが彼清吉めが飛んだ事をいたしましたさうで、ハイ/\、鐵五郎様から大概は聞きましたが、平常からして気の逸い奴で、直に打つの斫《き》るのと騒ぎまして其度にひや/\させまする、お蔭さまで一人前にはなつて居りましても未だ児
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