《なん》もある、既堪忍の緒も断れたり、卑劣《きたな》い返報《かへし》は為まいなれど源太が烈しい意趣返報は、為る時為さで置くべき歟、酸くなるほどに今までは口もきいたが既きかぬ、一旦思ひ捨つる上は口きくほどの未練も有たぬ、三年なりとも十年なりとも返報《しかへし》するに充分な事のあるまで、物蔭から眼を光らして睨みつめ無言でじつと待つてゝ呉れうと、気性が違へば思はくも一二度終に三度めで無残至極に齟齬《くひちが》ひ、いと物静に言葉を低めて、十兵衞殿、と殿の字を急につけ出し叮嚀に、要らぬといふ図は仕舞ひましよ、汝一人で建つる塔定めて立派に出来やうが、地震か風の有らう時壊るゝことは有るまいな、と軽くは云へど深く嘲ける語《ことば》に十兵衞も快よからず、のつそりでも恥辱《はぢ》は知つて居ります、と底力味ある楔《くさび》を打てば、中※[#二の字点、1−2−22]見事な一言ぢや、忘れぬやうに記臆《おぼ》えて居やうと、釘をさしつゝ恐ろしく睥みて後は物云はず、頓て忽ち立ち上つて、嗚呼飛んでも無い事を忘れた、十兵衞殿|寛《ゆる》りと遊んで居て呉れ、我は帰らねばならぬこと思ひ出した、と風の如くに其座を去り、あれといふ間に推量勘定、幾金《いくら》か遺して風《ふい》と出つ、直其足で同じ町の某《ある》家が閾またぐや否、厭だ/\、厭だ/\、詰らぬ下らぬ馬鹿※[#二の字点、1−2−22]※[#二の字点、1−2−22]しい、愚図※[#二の字点、1−2−22]※[#二の字点、1−2−22]せずと酒もて来い、蝋燭いぢつて其が食へるか、鈍痴《どぢ》め肴で酒が飲めるか、小兼春吉お房蝶子四の五の云はせず掴むで来い、臑《すね》の達者な若い衆頼も、我家《うち》へ行て清、仙、鐵、政、誰でも彼でも直に遊びに遣《よ》こすやう、といふ片手間にぐい/\仰飲《あふ》る間も無く入り来る女共に、今晩なぞとは手ぬるいぞ、と驀向《まつかう》から焦躁《じれ》を吹つ掛けて、飲め、酒は車懸り、猪口《ちよく》は巴と廻せ廻せ、お房|外見《みえ》をするな、春婆大人ぶるな、ゑゝお蝶め其でも血が循環《めぐ》つて居るのか頭上《あたま》に鼬《いたち》花火載せて火をつくるぞ、さあ歌へ、ぢやん/\と遣れ、小兼め気持の好い声を出す、あぐり踊るか、かぐりもつと跳ねろ、やあ清吉来たか鐵も来たか、何でも好い滅茶※[#二の字点、1−2−22]※[#二の字点、1−2−22]に
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