侠客の種類
幸田露伴
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)二本指《にほんざし》
|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)其の特性|気質《かたぎ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、底本のページと行数)
(例)色※[#「※」は二の字点、第3水準1−2−22、198−1]な
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)どし/\
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侠客と一口に言つても徳川時代の初期に起つた侠客と其の以後に出た侠客とは、名は同じ侠客でも余程様子が違つて居るやうである。初期のは市人の中の気慨のある者か或は武士の仕官の途に断念した者などが、武士の跋扈に反抗して之を膺懲し或は之に対抗する考へから起つたのであるらしいが、夫から以後、即ち天明前後から天保あたりへ懸けての侠客といふものは多くは博徒のやうな類である。即ち之を分類すれば、徳川初期のは強い圧迫に対する強い反抗の体現であつて、其の物の本当の意味からすれば、強い者に当る必要上真実に強きものたるを主とするは勿論であるが、真実に於ては寧ろ啻に強いことを見得として居る様な傾きのあつた、やゝ虚栄的衒耀的のものであつたらしい。然るに天明あたりからの博徒に至つては、夫れ自らが非常に強い、鷙悍当る可らざるものがあつた。然様判然とした区別は意識的には付かぬまでも、少くとも両時代の侠客には何分かの差違があつたのである。我国で乱離の世と云へば先づ足利の末世を指すのであるが、博奕が此時代から大に盛んになつた。元来戦争其ものが已に一つの大博奕であるからと云ふ訳でも無からうが、梟盧一擲と云ふ冒険的思想は、戦争にも博奕にも通じた同一の根本思想である。此の戦国時代に起つた博奕は、太平の世になつても引続いて勇気の多い、事を好む徒輩の間に盛んに行はれて居たので、尤も元文(吉宗)になつて一度禁制はされたものゝ天明前後(家治)から又た盛んになり、所謂侠客は隠然として博徒の巨魁たる観を呈して居た。
夫れから第三次の侠客は、諸大名の中に何か一つ事が起ると人夫が必要になる、二本指《にほんざし》の人間は使つて居ても之を雑役には使へぬし、又た俸禄の関係から云つても、平時用の無い時に万一を慮つて沢山の雇人を使つて置くといふことが出来ぬ。其処で臨時の用事が出来ると一時限
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