−22]※[#二の字点、1−2−22]しく高い巌壁《がんぺき》になっているその下を川が流れて、こちらは山が自然に開けて、少しばかり山畠《やまばたけ》が段※[#二の字点、1−2−22]を成して見え、粟《あわ》や黍《きび》が穂を垂れているかとおもえば、兎《うさぎ》に荒されたらしいいたって不景気な豆畠に、もう葉を失って枯れ黒んだ豆がショボショボと泣きそうな姿をして立っていたりして、その彼方《むこう》に古ぼけた勾配の急な茅屋《かやや》が二軒三軒と飛び飛びに物悲しく見えた。天《そら》は先刻《さっき》から薄暗くなっていたが、サーッというやや寒い風が下《おろ》して来たかと見る間《ま》に、楢《なら》や槲《かしわ》の黄色な葉が空からばらついて降って来ると同時に、木《こ》の葉の雨ばかりではなく、ほん物の雨もはらはらと遣《や》って来た。渓《たに》の上手《かみて》の方を見あげると、薄白い雲がずんずんと押して来て、瞬く間に峯巒《ほうらん》を蝕《むしば》み、巌を蝕み、松を蝕み、忽《たちま》ちもう対岸の高い巌壁をも絵心《えごころ》に蝕んで、好い景色を見せてくれるのは好かったが、その雲が今開いてさしかざした蝙蝠傘《こ
前へ 次へ
全44ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング