張らせて威張《いば》って馬に騎《の》っている官人《かんじん》のようなものもあり、跣足《はだし》で柳条《りゅうじょう》に魚の鰓《あぎと》を穿《うが》った奴をぶらさげて川から上《あが》って来たらしい漁夫もあり、柳がところどころに翠烟《すいえん》を罩《こ》めている美しい道路を、士農工商|樵漁《しょうぎょ》、あらゆる階級の人※[#二の字点、1−2−22]が右徃左徃《うおうさおう》している。綺錦《ききん》の人もあれば襤褸《らんる》の人もある、冠《かぶ》りものをしているのもあれば露頂《ろちょう》のものもある。これは面白い、春江《しゅんこう》の景色に併せて描いた風俗画だナと思って、また段※[#二の字点、1−2−22]に燈《ともしび》を移して左の方へ行くと、江岸がなだらになって川柳が扶疎《ふそ》としており、雑樹《ぞうき》がもさもさとなっているその末には蘆荻《ろてき》が茂っている。柳の枝や蘆荻の中には風が柔らかに吹いている。蘆《あし》のきれ目には春の水が光っていて、そこに一|艘《そう》の小舟が揺れながら浮いている。船は※[#「竹かんむり/遽」、80−1]※[#「竹かんむり/除」、80−1]《あじろ》を編んで日除《ひよけ》兼|雨除《あまよけ》というようなものを胴《どう》の間《ま》にしつらってある。何やら火爐《こんろ》だの槃※[#「石+喋のつくり」、第4水準2−82−46]《さら》だのの家具も少し見えている。船頭の老夫《じいさん》は艫《とも》の方に立上《たちあが》って、※[#「爿+戈」、第4水準2−12−83]※[#「爿+可」、80−3]《かしぐい》に片手をかけて今や舟を出そうとしていながら、片手を挙げて、乗らないか乗らないかといって人を呼んでいる。その顔がハッキリ分らないから、大噐氏は燈火《ともしび》を段※[#二の字点、1−2−22]と近づけた。遠いところから段※[#二の字点、1−2−22]と歩み近づいて行くと段※[#二の字点、1−2−22]と人顔《ひとがお》が分って来るように、朦朧《もうろう》たる船頭の顔は段※[#二の字点、1−2−22]と分って来た。膝ッ節《ぷし》も肘《ひじ》もムキ出しになっている絆纏《はんてん》みたようなものを着て、極※[#二の字点、1−2−22]《ごくごく》小さな笠を冠《かぶ》って、やや仰いでいる様子は何ともいえない無邪気なもので、寒山《かんざん》か拾得《じっと
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