た訳は一寸解しかねる。事によると是は羊を以て狼を誘うの謀《はかりごと》で、斯《こ》の様な弱武者の木村父子を活餌《いきえ》にして隣の政宗を誘い、政宗が食いついたらば此畜生《こんちくしょう》めと殺して終おうし、又何処までも殊勝気に狼が法衣《ころも》を着とおすならば物のわかる狼だから其儘《そのまま》にして置いて宜い、というので、何の事は無い木村父子は狼の窟《いわや》の傍《そば》に遊ばせて置かれる羊の役目を云い付かったのかも知れない。筋書が若《も》し然様ならば木村父子は余り好い役では無いのだった。
又氏郷に対して木村父子を子とも家来とも思えと云い、木村父子に対して氏郷を親とも主とも思えと秀吉の呉々《くれぐれ》も訓諭したのは、善意に解すれば氏郷を羊の番人にしたのに過ぎないが、人を悪く考えれば、羊が狼に食い殺された場合は番人には切腹させ、番人と狼と格闘して狼が死ねば珍重珍重、番人が死んだ場合には大概|草臥《くたび》れた狼を撲《ぶ》ちのめすだけの事、狼と番人とが四ツに組んで捻合《ねじあ》って居たら危気無しに背面から狼を胴斬《どうぎ》りにして終う分の事、という四本の鬮《くじ》の何《ど》れが出ても差支
前へ
次へ
全153ページ中79ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング