北上川沿岸の地から出張し、子の弥一右衛門清久は大崎の古河城、今の小牛田《こごた》駅より西北の地から出張して、佐沼の城の後詰を議したところ、一揆の方は予《あらかじ》め作戦計画を立てて居たものと見えて、不在になった豊間と古河の両城をソレ乗取れというので忽《たちま》ち攻陥《せめおと》して終った。佐沼は豊間よりは西北、古河よりは東に当るが、豊間と古河との距離は直接にすれば然のみ距《へだた》って居らぬとは云え、然程に近い訳でも無いのに、是《かく》の如く手際|能《よ》く木村父子が樹に離れた猿か水を失った鮒のように本拠を奪われたところを見ると、一揆の方には十分の準備が有り統一が保てて居て、思う壺へ陥れたものと見える。ナマヌル魂の木村父子は旅《りょ》の卦《け》の文に所謂《いわゆる》鳥其巣を焚《や》かれた旅烏、バカアバカアと自ら鳴くよりほか無くて、何共《なんとも》せん方ないから、自分が援助するつもりで来た成合平左衛門に却《かえっ》て援《たす》けられる形となって、佐沼の城へ父子共|立籠《たてこも》ることになった。
西を向いても東を向いても親類縁者が有るでも無い新領地での苦境に陥っては、二人は予《かね》て
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