るべき可能性が多かったのである。戦乱の世というものは何時も其下と其上と和睦《わぼく》し難いような事情が起ると、第三者が窃《ひそ》かに其下に助力して其主権者を逐落《おいおと》し、そして其土地の主人となって終《しま》うのである。或は特《こと》に利を啗《くら》わせて其下をして其上に負《そむ》かせて我に意《こころ》を寄せしめ置いて、そして表面は他の口実を以て襲って之を取るのであるし、下たるものも亦|是《かく》の如くにして自己の地位や所得を盛上げて行くのである。窃かに心を寄せるのが「内通」であり、利を啗わせて事を発《おこ》させるのが「嘱賂《そくろ》を飼う」のであり、まだ表面には何の事も無くても他領他国へ対して計略を廻らすのが「陰謀」である。たとえば伊達政宗が会津を取った時、一旦は降参した横田氏勝の如きは、降参して見ると所領を余り削減されたので政宗を恨んだ。そこで政宗から会津を取返したくて使を石田三成へ遣わしたりなんぞしている。然様いう理屈だから、秀吉の方へ政宗が小田原へ出渋った腹の底でも何でも知れて終うのである。是の如きことは甲にも乙にも上《かみ》にも下《しも》にも互に有ることで、戦乱の世の月並
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