《これなく》、と云い抜けたのも此時の事である。鶺鴒の眼睛《がんせい》の在処《ありどこ》を月に三度易えるとは、平生から恐ろしい細かい細工を仕たものだ。
政宗は是《かく》の如く証拠書類を全然否定して剛情に自分の罪を認めなかった。溝《みぞ》の底の汚泥を掴《つか》み出すのは世態に通じたもののすることでは無い、と天明度の洒落者《しゃれもの》の山東京伝は曰《い》ったが、秀吉も流石《さすが》に洒落者だ。馬でも牛でも熊でも狼でも自分の腹の内を通り抜けさせてやる気がある。人の腹の中が好いの悪いのと注文を云って居る絛虫《さなだむし》や蛔虫《かいちゅう》のようなケチなものではない。三百代言|気質《かたぎ》に煩わしいことを以て政宗を責めは仕無かった。却って政宗に、一手を以って葛西大崎の一揆を平《たいら》げよと命じた。或は是れは政宗が自ら請うたのだとも云うが、孰《いず》れへ廻っても悪い役目は葛西大崎の土酋《どしゅう》で、政宗の為に小苛《こっぴど》い目に逢って終った。
此年の夏、南部の九戸左近政実という者が葛西大崎などのより規模の大きい反乱を起したが、秀次の総大将、氏郷の先鋒《せんぽう》、諸将出陣というので論
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