かんとする時のさまいと心地よく見ゆ。たとへば肥へて丈高き女の、雪と色白きが如し、眉つき眼つきは好くもあれ悪くもあれ、遠くより見たるに先づ心ひかる。されど此花の姿の、何となく漢《から》めきたるは、好かぬ人もあるべし。さる代りには、大寺の庭などに咲きて、其漢めきたるところあるがために褒めたゝへらるゝこともあるなるべし。

      梨花

 李の花は悲しげなり、梨の花は冷《つめた》げなり。海棠の花は朝の露に美しく、梨の花は夕月の光りに冴ゆ。桜の花は肉づきたり、梨の花は※[#「※」は「やまいだれ+瞿」、第3水準1−88−62、137−3]《や》せたり。花の中のそげものとや梨をばいふべき。飽まで俗ならで寂びたる花なり。異邦《ことくに》には色紅なる千葉のものもありときく。さる珍しきものならぬも、異邦のは我邦のより花美しきにや。また或は我邦にては果《み》を得んとのみ願ひて枝を撓《た》め幹を矮くするため、我も人もまことの梨の樹のふり花のおもむきをも知ること少く、おのづから美しきところを見出すをりも乏しく過ぎ来つる故にや。詩に比べては歌には梨の花を褒め称ふること稀なり。

      薔薇

 刺あ
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