を奪えるに歯を切《くいしば》り、慷慨《こうがい》悲憤して以て回天の業を為《な》さんとするの女英雄《じょえいゆう》となす。女仙外史の人の愛読|耽翫《たんがん》を惹《ひ》く所以《ゆえん》のもの、決して尠少《せんしょう》にあらずして、而して又実に一|篇《ぺん》の淋漓《りんり》たる筆墨《ひつぼく》、巍峨《ぎが》たる結構を得る所以のもの、決して偶然にあらざるを見る。
 賽児《さいじ》は蒲台府《ほだいふ》の民《たみ》林三《りんさん》の妻、少《わか》きより仏を好み経を誦《しょう》せるのみ、別に異ありしにあらず。林三死して之《これ》を郊外に葬《ほうむ》る。賽児墓に祭りて、回《かえ》るさの路《みち》、一山の麓《ふもと》を経たりしに、たま/\豪雨の後にして土崩れ石|露《あら》われたり。これを視《み》るに石匣《せきこう》なりければ、就《つ》いて窺《うかが》いて遂《つい》に異書と宝剣とを得たり。賽児これより妖術に通じ、紙を剪《き》って人馬となし、剣《けん》を揮《ふる》って咒祝《じゅしゅく》を為《な》し、髪を削って尼となり、教《おしえ》を里閭《りりょ》に布《し》く。祷《いのり》には効あり、言《ことば》には験《げ
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