平王《とうへいおう》に追封《ついほう》せらるゝに至りしもの、豈《あに》偶然ならんや。
 燕軍の勢《いきおい》非にして、王の甲《よろい》を解かざるもの数日なりと雖《いえど》も、将士の心は一にして兵気は善変せるに反し、南軍は再捷《さいしょう》すと雖も、兵気は悪変せり。天意とや云わん、時運とや云わん。燕軍の再敗せること京師に聞えければ、廷臣の中《うち》に、燕今は且《まさ》に北に還《かえ》るべし、京師空虚なり、良将無かるべからず、と曰う者ありて、朝議|徐輝祖《じょきそ》を召還《めしかえ》したもう。輝祖《きそ》已《や》むを得ずして京《けい》に帰りければ、何福《かふく》の軍の勢《いきおい》殺《そ》げて、単糸《たんし》の※[#「糸+刃」、第4水準2−84−10]《しない》少《すくな》く、孤掌《こしょう》の鳴り難き状を現わしぬ。加うるに南軍は北軍の騎兵の馳突《ちとつ》に備うる為に塹濠《ざんごう》を掘り、塁壁を作りて営と為《な》すを常としければ、軍兵休息の暇《いとま》少《すくな》く、往々|虚《むな》しく人力を耗《つく》すの憾《うらみ》ありて、士卒|困罷《こんひ》退屈の情あり。燕王の軍は塹塁《ざんるい》を
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