到《いた》り援《すく》わんとして月漾橋《げつようきょう》の伏兵に執《とら》えられ、部将|張保《ちょうほ》敵に降りて其の利用するところとなり、遂に※[#「濾」の「思」に代えて「乎」、第4水準2−79−10]沱河《こだか》の北岸に於《おい》て、燕王及び張玉、朱能、譚淵《たんえん》、馬雲《ばうん》等《ら》の為に大《おおい》に敗れて、李堅《りけん》、※[#「宀/必/冉」、UCS−5BD7、300−11]忠《ねいちゅう》、顧成《こせい》、劉燧《りゅうすい》を失うに至れり。ただ炳文の陣に熟せる、大敗して而《しか》も潰《つい》えず、真定城《しんていじょう》に入りて門を闔《と》じて堅く守る。燕兵|勝《かち》に乗じて城を囲む三日、下す能《あた》わず。燕王も炳文が老将にして破り易《やす》からざるを知り、囲《い》を解いて還《かえ》る。
炳文の一敗は猶《なお》復すべし、帝炳文の敗を聞いて怒りて用いず、黄子澄《こうしちょう》の言によりて、李景隆《りけいりゅう》を大将軍とし、斧鉞《ふえつ》を賜《たま》わって炳文に代らしめたもうに至って、大事ほとんど去りぬ。景隆は※[#「糸+丸」、第3水準1−89−90]袴《がんこ》の子弟、趙括《ちょうかつ》の流《りゅう》なればなり。趙括を挙げて廉頗《れんぱ》に代う。建文帝の位を保つ能わざる、兵戦上には実に此《これ》に本づく。炳文の子|※[#「王+睿」、第3水準1−88−34]《えい》[#「※[#「王+睿」、第3水準1−88−34]」は底本では「※[#「王+「虞」の「呉」に代えて「僚のつくり−小」、301−7]」]は、帝の父|懿文《いぶん》太子の長女|江都公主《こうとこうしゅ》を妻とす、※[#「王+睿」、第3水準1−88−34]《えい》[#「※[#「王+睿」、第3水準1−88−34]」は底本では「※[#「王+「虞」の「呉」に代えて「僚のつくり−小」、301−7]」]父の復《また》用いられざるを憤ること甚《はなはだ》しかりしという。又※[#「王+睿」、第3水準1−88−34][#「※[#「王+睿」、第3水準1−88−34]」は底本では「※[#「王+「虞」の「呉」に代えて「僚のつくり−小」、301−8]」]の弟|※[#「王+獻」、UCS−74DB、301−7]《けん》、遼東《りょうとう》の鎮守《ちんじゅ》呉高《ごこう》、都指揮使《としきし》楊文《ようぶん》と与《とも》に兵を率いて永平《えいへい》を囲み、東より北平を動かさんとしたりという。二子の護国の意の誠なるも知るべし。それ勝敗は兵家の常なり。蘇東坡《そとうば》が所謂《いわゆる》善《よ》く奕《えき》する者も日に勝って日に敗《やぶ》るゝものなり。然るに一敗の故を以て、老将を退け、驕児《きょうじ》を挙ぐ。燕王手を拍《う》って笑って、李九江《りきゅうこう》は膏梁《こうりょう》の豎子《じゅし》のみ、未だ嘗《かつ》て兵に習い陣を見ず、輙《すなわ》ち予《あた》うるに五十万の衆を以てす、是《これ》自ら之《これ》を坑《あな》にする也《なり》、と云えるもの、酷語といえども当らずんばあらず。炳文を召して回《かえ》らしめたる、まことに歎《たん》ずべし。
景隆|小字《しょうじ》は九江《きゅうこう》、勲業あるにあらずして、大将軍となれる者は何ぞや。黄子澄、斉泰の薦《すす》むるに因《よ》るも、又別に所以《ゆえ》有るなり。景隆は李文忠《りぶんちゅう》の子にして、文忠は太祖の姉の子にして且つ太祖の子となりしものなり。之に加うるに文忠は器量沈厚、学を好み経《けい》を治め、其《そ》の家居するや恂々《じゅんじゅん》として儒者の如く、而《しか》も甲を※[#「てへん+鐶のつくり」、第3水準1−85−3]《ぬ》き馬に騎《の》り槊《ほこ》を横たえて陣に臨むや、※[#「足へん+卓」、第4水準2−89−35]※[#「厂+萬」、第3水準1−14−84]《たくれい》風発、大敵に遇《あ》いて益《ますます》壮《さかん》に、年十九より軍に従いて数々《しばしば》偉功を立て、創業の元勲として太祖の愛重《あいちょう》[#「愛重」は底本では「受重」]するところとなれるのみならず、西安《せいあん》に水道を設けては人を利し、応天《おうてん》に田租を減じては民を恵《めぐ》み、誅戮《ちゅうりく》を少《すくな》くすることを勧め、宦官《かんがん》を盛《さか》[#ルビの「さか」は底本では「さかん」]んにすることを諫《いさ》め、洪武十五年、太祖日本|懐良王《かねながおう》の書に激して之を討たんとせるを止《とど》め、(懐良王、明史《みんし》に良懐に作るは蓋《けだ》し誤《あやまり》也。懐良王は、後醍醐《ごだいご》帝の皇子、延元《えんげん》三年、征西大将軍に任じ、筑紫《つくし》を鎮撫《ちんぶ》す。菊池武光《きくちたけみつ》等《ら》之《これ》に従い、興国《こうこ
前へ
次へ
全58ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング