CS−5E59、274−11]《いばく》の中に居《お》く。燕王の心胸もとより清からず、道衍の瓜甲《そうこう》も毒ありというべし。道衍|燕邸《えんてい》に至るに及んで袁※[#「王+共」、第3水準1−87−92]《えんこう》を王に薦む。袁※[#「王+共」、第3水準1−87−92]は字《あざな》は廷玉《ていぎょく》、※[#「覲」の「見」に代えて「おおざと」、第4水準2−90−26]《きん》の人にして、此《これ》亦《また》一種の異人なり。嘗《かつ》て海外に遊んで、人を相《そう》するの術を別古崖《べつこがい》というものに受く。仰いで皎日《こうじつ》を視《み》て、目|尽《ことごと》く眩《げん》して後、赤豆《せきとう》黒豆《こくとう》を暗室中に布《し》いて之を弁《べん》じ、又五色の縷《いと》を窓外に懸け、月に映じて其《その》色を別って訛《あやま》つこと無く、然《しか》して後に人を相す。其法は夜中を以て両炬《りょうきょ》を燃《もや》し、人の形状|気色《きしょく》を視《み》て、参するに生年|月日《げつじつ》を以てするに、百に一|謬《びょう》無く、元末より既に名を天下に馳《は》せたり。其の道衍《どうえん》と識《し》るに及びたるは、道衍が嵩山寺《すうざんじ》に在りし時にあり。袁※[#「王+共」、第3水準1−87−92]《えんこう》道衍が相をつく/″\と観《み》て、是《こ》れ何ぞ異僧なるや、目は三角あり、形は病虎《びょうこ》の如し。性|必《かな》らず殺を嗜《たしな》まん。劉秉忠《りゅうへいちゅう》の流《りゅう》なりと。劉秉忠は学《がく》内外を兼ね、識《しき》三才を綜《す》ぶ、釈氏《しゃくし》より起《おこ》って元主を助け、九州を混一《こんいつ》し、四海を併合す。元の天下を得る、もとより其の兵力に頼《よ》ると雖も、成功の速疾なるもの、劉の揮※[#「てへん+霍」、UCS−6509、275−10]《きかく》の宜《よろ》しきを得るに因《よ》るもの亦《また》鮮《すくな》からず。秉忠は実に奇偉卓犖《きいたくらく》の僧なり。道衍秉忠の流なりとなさる、まさに是れ癢処《ようしょ》に爬着《はちゃく》するもの。是れより二人、友とし善《よ》し。道衍の※[#「王+共」、第3水準1−87−92]《こう》を燕王に薦むるに当りてや、燕王|先《ま》ず使者をして※[#「王+共」、第3水準1−87−92]《こう》と与《とも》に酒肆《しゅし》に飲ましめ、王みずから衛士の儀表堂々たるもの九人に雑《まじ》わり、おのれ亦《また》衛士の服を服し、弓矢《きゅうし》を執《と》りて肆中《しちゅう》に飲む。※[#「王+共」、第3水準1−87−92]一見して即《すなわ》ち趨《はし》って燕王の前に拝して曰《いわ》く、殿下何ぞ身を軽んじて此《ここ》に至りたまえると。燕王等笑って曰く、吾輩《わがはい》皆護衛の士なりと。※[#「王+共」、第3水準1−87−92]|頭《こうべ》を掉《ふ》って是《ぜ》とせず。こゝに於て王|起《た》って入り、※[#「王+共」、第3水準1−87−92]を宮中に延《ひ》きて詳《つばら》に相《そう》せしむ。※[#「王+共」、第3水準1−87−92]|諦視《ていし》すること良《やや》久しゅうして曰《いわ》く、殿下は龍行虎歩《りゅうこうこほ》したまい、日角《にっかく》天を挿《さしはさ》む、まことに異日太平の天子にておわします。御年《おんとし》四十にして、御鬚《おんひげ》臍《へそ》を過《す》ぎさせたもうに及ばせたまわば、大宝位《たいほうい》に登らせたまわんこと疑《うたがい》あるべからず、と白《もう》す。又|燕府《えんふ》の将校官属を相せしめたもうに、※[#「王+共」、第3水準1−87−92]一々指点して曰く、某《ぼう》は公《こう》たるべし、某は侯《こう》たるべし、某は将軍たるべし、某は貴官たるべしと。燕王|語《ことば》の洩《も》れんことを慮《はか》り、陽《うわべ》に斥《しりぞ》けて通州《つうしゅう》に至らしめ、舟路《しゅうろ》密《ひそか》に召して邸《てい》に入る。道衍は北平《ほくへい》の慶寿寺《けいじゅじ》に在り、※[#「王+共」、第3水準1−87−92]は燕府《えんふ》に在り、燕王と三人、時々人を屏《しりぞ》けて語る。知らず其の語るところのもの何ぞや。※[#「王+共」、第3水準1−87−92]は柳荘居士《りゅうそうこじ》と号す。時に年|蓋《けだ》し七十に近し。抑《そも》亦《また》何の欲するところあって燕王に勧めて反せしめしや。其子|忠徹《ちゅうてつ》の伝うるところの柳荘相法、今に至って猶《なお》存し、風鑑《ふうかん》の津梁《しんりょう》たり。※[#「王+共」、第3水準1−87−92]と永楽帝と答問するところの永楽百問の中《うち》、帝鬚《ていしゅ》の事を記す。相法三巻、信ぜざるものは、目して陋書《ろう
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