らざりしや、試《こころみ》に之を問わんと欲する也。幸《さいわい》にしてタメルランは、千四百〇五年|即《すなわち》永楽三年二月の十七日、病んでオトラル(Otoral)に死し、二雄|相《あい》下らずして龍闘虎争《りゅうとうこそう》するの惨禍《さんか》を禹域《ういき》の民に被《こうむ》らしむること無くして已《や》みぬ。
四年|応文《おうぶん》は西平侯《せいへいこう》の家に至り、止《とど》まること旬日、五月|庵《いおり》を白龍山《はくりゅうざん》に結びぬ。五年冬、建文帝、難に死せる諸人を祭り、みずから文を為《つく》りて之《これ》を哭《こく》したもう。朝廷|帝《てい》を索《もと》むること密《みつ》なれば、帝深く潜《ひそ》みて出《い》でず。此《この》歳《とし》傅安《ふあん》朝《ちょう》に帰る。安の胡地《こち》を歴游《れきゆう》する数万里、域外に留《とど》まる殆《ほとん》ど二十年、著す所|西遊勝覧詩《せいゆうしょうらんし》あり、後の好事《こうず》の者の喜び読むところとなる。タメルランの後《のち》の哈里《ハリ》(Hali)雄志《ゆうし》無し、使《つかい》を安《あん》に伴わしめ方物《ほうぶつ》を貢《こう》す。六年、白龍庵|災《さい》あり、程済《ていせい》[#ルビの「ていせい」は底本では「ていさい」]募《つの》り葺《ふ》く。七年、建文帝、善慶里《ぜんけいり》に至り、襄陽《じょうよう》に至り、※[#「さんずい+眞」、第3水準1−87−1]《てん》に還《かえ》る。朝廷|密《ひそか》に帝を雲南《うんなん》貴州《きしゅう》の間に索《もと》む。
八年春三月、工部尚書《こうぶしょうしょ》厳震《げんしん》安南《あんなん》に使《つかい》するの途《みち》にして、忽《たちま》ち建文帝に雲南に遇《あ》う。旧臣|猶《なお》錦衣《きんい》にして、旧帝|既《すで》に布衲《ふとつ》なり。震《しん》たゞ恐懼《きょうく》して落涙|止《とど》まらざるあるのみ。帝、我を奈何《いかん》せんとするぞや、と問いたもう。震|対《こた》えて、君は御心《みこころ》のまゝにおわせ、臣はみずから処する有らんと申《もう》す。人生の悲しきに堪えずや有りけん、其《その》夜《よ》駅亭にみずから縊《くび》れて死しぬ。夏、帝白龍庵に病みたもう。史彬《しひん》、程亨《ていこう》、郭節《かくせつ》たま/\至る。三人留まる久しくして、帝これを遣《や》りたまい、今後再び来《きた》る勿《なか》れ、我|安居《あんきょ》す、心づかいすなと仰《おお》す。帝白龍庵を舎《す》てたもう。此《この》歳《とし》永楽帝は去年|丘福《きゅうふく》を漠北《ばくほく》に失えるを以て北京《ほくけい》を発して胡地《こち》に入り、本雅失里《ベンヤシリ》(Benyashili)阿魯台《アルタイ》(Altai)等《ら》と戦いて勝ち、擒狐山《きんこざん》、清流泉《せいりゅうせん》の二処に銘を勒《ろく》して還りたもう。
九年春、白龍庵|有司《ゆうし》の毀《こぼ》つところとなる。夏建文帝|浪穹《ろうきゅう》鶴慶山《かくけいざん》に至り、大喜庵《たいきあん》を建つ。十年|楊応能《ようおうのう》卒し、葉希賢《しょうきけん》次《つ》いで卒す。帝|因《よ》って一弟子《いちていし》を納《い》れて応慧《おうえ》と名づけたもう。十一年|甸《てん》に至りて還り、十二年易数を学びたもう。此《この》歳《とし》永楽帝また塞外《さくがい》に出《い》で、瓦剌《オイラト》を征したもう。皇太孫|九龍口《きゅうりゅうこう》に於《おい》て危難に臨む。十三年建文帝|衡山《こうざん》に遊ばせたもう。十四年、帝|程済《ていせい》に命じて従亡伝《じゅうぼうでん》を録せしめ、みずから叙《じょ》を為《つく》らる。十五年|史彬《しひん》白龍庵に至る、庵《あん》を見ず、驚訝《きょうが》して帝を索《もと》め、終《つい》に大喜庵《たいきあん》に遇《あ》い奉る。十一月帝|衡山《こうざん》に至りたもう、避くるある也。十六年、黔《きん》に至りたもう。十七年始めて仏書を観《み》たもう。十八年|蛾眉《がび》に登り、十九年|粤《えつ》に入り、海南諸勝に遊び、十一月還りたもう。此《この》歳《とし》阿魯台《アルタイ》反す。二十年永楽帝、阿魯台《アルタイ》を親征す。二十一年建文帝|章台山《しょうだいさん》に登り、漢陽《かんよう》に遊び、大別山《たいべつざん》に留《とど》まりたもう。
二十二年春、建文帝東行したまい、冬十月|史彬《しひん》と旅店に相《あい》遇《あ》う。此《この》歳《とし》阿魯台《アルタイ》大同《だいどう》[#ルビの「だいどう」は底本では「たいどう」]に寇《あだ》す。去年|阿魯台《アルタイ》を親征し、阿魯台《アルタイ》遁《のが》れて戦わず、師|空《むな》しく還る。今又|塞《さい》を犯す。永楽帝また親征す。敵に
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