7−85]」]を遣《や》りて、燕王及び諸将士の罪を赦《ゆる》して、本国に帰らしむることを詔《みことのり》し、燕軍を散ぜしめて、而して大軍を以《もっ》て其《その》後《あと》に躡《つ》かしめんとす。※[#「山/品」、第3水準1−47−85]《がん》到りて却《かえ》って燕王の機略威武の服するところとなり、帰って燕王の語|直《ちょく》にして意|誠《まこと》なるを奏し、皇上|権奸《けんかん》を誅《ちゅう》し、天下の兵を散じたまわば、臣|単騎《たんき》闕下《けっか》に至らんと、云える燕王の語を奏す。帝|方孝孺《ほうこうじゅ》に語りたまわく、誠に※[#「山/品」、第3水準1−47−85]の言の如くならば、斉黄《せいこう》我を誤るなりと。孝孺|悪《にく》みて曰く、※[#「山/品」、第3水準1−47−85]の言、燕の為《ため》に游説《ゆうぜい》するなりと。五月、呉傑、平安、兵を発して北平の糧道を断つ。燕王、指揮《しき》武勝《ぶしょう》を遣《や》りて、朝廷兵を罷《や》むるを許したまいて、而して糧を絶ち北を攻めしめたもうは、前詔《ぜんしょう》と背馳《はいち》すと奏す。帝書を得て兵を罷《や》むるの意あり。方孝孺に語りたまわく、燕王は孝康《こうこう》皇帝|同産《どうさん》の弟なり、朕《ちん》の叔父《しゅくふ》なり、吾《われ》他日|宗廟《そうびょう》神霊に見《まみ》えざらんやと。孝孺曰く、兵一たび散すれば、急に聚《あつ》む可からず。彼長駆して闕《けつ》を犯さば、何を以て之《これ》を禦《ふせ》がん、陛下惑いたもうなかれと。勝《しょう》を錦衣獄《きんいごく》に下す。燕王|聞《きい》て大《おおい》に怒る。孝孺の言、真《まこと》に然《しか》り、而して建文帝の情《じょう》、亦|敦《あつ》しというべし。畢竟《ひっきょう》南北相戦う、調停の事、復《また》為《な》す能わざるの勢《いきおい》に在《あ》り、今に於《おい》て兵戈《へいか》の惨《さん》を除かんとするも、五|色《しき》の石、聖手にあらざるよりは、之を錬《ね》ること難きなり。
 此《この》月《つき》燕王|指揮《しき》李遠《りえん》をして軽騎六千を率いて徐沛《じょはい》に詣《いた》り、南軍の資糧を焚《や》かしむ。李遠、丘福《きゅうふく》、薛禄《せつろく》[#「薛禄」は底本では「薜緑」]と策応して、能《よ》く功を収《おさ》め、糧船数万|艘《そう》、糧数百万を焚《や》く。軍資器械、倶《とも》に※[#「火+畏」、第3水準1−87−57]燼《かいじん》となり、河水|尽《ことごと》く熱きに至る。京師これを聞きて大に震駭《しんがい》す。
 七月、平安《へいあん》兵を率いて真定より北平に到り、平村《へいそん》に営す。平村は城を距《さ》る五十里のみ。燕王の世子《せいし》、危《あやう》きを告ぐ。王|劉江《りゅうこう》を召して策を問う。江|乃《すなわ》ち兵を率いて※[#「濾」の「思」に代えて「乎」、第4水準2−79−10]沱《こだ》を渡り、旗幟《きし》を張り、火炬《かきょ》を挙げ、大《おおい》に軍容を壮《さかん》にして安と戦う。安の軍敗れ、安|還《かえ》って真定に走る。
 方孝孺の門人|林嘉猷《りんかゆう》、計《はかりごと》をもって燕王父子をして相《あい》疑わしめんとす。計《けい》行われずして已《や》む。
 盛庸等、大同《だいどう》の守将|房昭《ぼうしょう》に檄《げき》し、兵を引いて紫荊関《しけいかん》に入り、保定《ほてい》の諸県を略し、兵を易州《えきしゅう》の西水寨《せいすいさい》に駐《とど》め、険《けん》に拠《よ》りて持久の計を為《な》し、北平を窺《うかが》わしめんとす。燕王これを聞きて、保定失われんには北平|危《あやう》しとて、遂《つい》に令を下して師を班《かえ》す。八月より九月に至り、燕兵西水寨を攻め、十月真定の援兵を破り、併《あわ》せて寨を破る。房昭走りて免《のが》る。
 十一月、※[#「馬+付」、第4水準2−92−84]馬都尉《ふばとい》梅殷《ばいいん》をして淮安《わいあん》を鎮守《ちんしゅ》せしむ。殷は太祖の女《じょ》の寧国《ねいこく》公主《こうしゅ》に尚《しょう》す。太祖の崩ぜんとするや、其の側《かたえ》に侍して顧命を受けたる者は、実に帝と殷となり。太祖顧みて殷に語りたまわく、汝《なんじ》老成忠信、幼主を託すべしと。誓書および遺詔を出して授けたまい、敢《あえ》て天に違《たが》う者あらば、朕が為《ため》に之《これ》を伐《う》て、と言い訖《おわ》りて崩《かく》れたまえるなり。燕の勢《いきおい》漸《ようや》く大なるに及びて、諸将観望するもの多し。乃《すなわ》ち淮南《わいなん》の民を募り、軍士を合《がっ》して四十万と号し、殷に命じて之を統《す》べて、淮上《わいじょう》に駐《とど》まり、燕師を扼《やく》せしむ。燕王これを聞き、殷に
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