そそ》ぎ、一城の士《し》を魚とせんとす。城中|是《ここ》に於て大《おおい》に安んぜず。鉉曰く、懼《おそ》るゝ勿《なか》れ、吾《われ》に計ありと。千人を遣《や》りて詐《いつわ》りて降《くだ》らしめ、燕王を迎えて城に入らしめ、予《かね》て壮士を城上に伏せて、王の入るを侯《うかが》いて大鉄板を墜《おと》して之《これ》を撃ち、又別に伏《ふく》を設けて橋を断たしめんとす。燕王|計《はかりごと》に陥り、馬に乗じ蓋《がい》を張り、橋を渡り城に入る。大鉄板|驟《にわか》に下る。たゞ少しく早きに失して、王の馬首を傷つく。王驚きて馬を易《か》えて馳《は》せて出《い》づ。橋を断たんとす。橋|甚《はなは》だ堅《かた》し。未《いま》だ断つに及ばずして、王|竟《つい》に逸し去る。燕王|幾《ほと》んど死して幸《さいわい》に逃る。天助あるものゝ如し。王|大《おおい》に怒り、巨※[#「石+駁」、UCS−791F、316−5]《きょほう》を以て城を撃たしむ 城壁破れんとす。鉉|愈《いよいよ》屈せず、太祖高皇帝の神牌《しんぱい》を書して城上に懸けしむ。燕王|敢《あえ》て撃たしむる能《あた》わず。鉉又|数々《しばしば》不意に出でゝ壮士をして燕兵を脅《おびや》かさしむ。燕王|憤《いか》ること甚《はなはだ》しけれども、計の出づるところ無し。道衍《どうえん》書を馳《は》せて曰く、師老いたり、請う暫《しば》らく北平に還《かえ》りて後挙を図りたまえと。王|囲《かこみ》を撤して還る。鉉と盛庸|等《ら》と勢に乗じて之を追い、遂に徳州を回復し、官軍|大《おおい》に振う。鉉|是《ここ》に於て擢《ぬきん》でられて兵部尚書《へいぶしょうしょ》となり、盛庸は歴城侯《れきじょうこう》となりたり。
盛庸は初め耿炳文《こうへいぶん》に従い、次《つい》で李景隆《りけいりゅう》に従いしが、洪武中より武官たりしを以て、兵馬の事に習う。済南の防禦《ぼうぎょ》、徳州の回復に、其の材を認められて、平燕《へいえん》将軍となり、陳暉《ちんき》、平安《へいあん》、馬溥《ばふ》、徐真《じょしん》等の上に立ち、呉傑《ごけつ》、徐凱《じょがい》等と与《とも》に燕を伐《う》つの任に当りぬ。庸|乃《すなわ》ち呉傑、平安をして西の方|定州《ていしゅう》を守らしめ、徐凱をして東の方|滄州《そうしゅう》に屯《たむろ》せしめ、自ら徳州に駐《とど》まり、猗角《きかく》の勢を為《な》して漸《ようや》く燕を蹙《しじ》めんとす。燕王、徳州の城の、修築|已《すで》に完《まった》く、防備も亦厳にして破り難く、滄州の城の潰《つい》え※[#「土へん+己」、UCS−572E、317−6]《くず》るゝ[#「※[#「土へん+己」、UCS−572E、317−6]《くず》るゝ」は底本では「※[#「土へん+已」、317−6]《くず》るゝ」]こと久しくして破り易《やす》きを思い、之《これ》を下して庸の勢を殺《そ》がんと欲す。乃《すなわ》ち陽《よう》に遼東《りょうとう》を征するを令して、徐凱をして備えざらしめ、天津《てんしん》より直沽《ちょくこ》に至り、俄《にわか》に河《か》に沿いて南下するを令す。軍士|猶《なお》知らず、其《そ》の東を征せんとして而して南するを疑う。王厳命して疾行すること三百里、途《みち》に偵騎《ていき》に遇《あ》えば、尽《ことごと》く之《これ》を殺し、一昼夜にして暁《あかつき》に比《およ》びて滄州に至る。凱の燕師の到《いた》れるを覚《さと》りし時には、北卒四面より急攻す。滄州の衆皆驚きて防ぐ能《あた》わず。張玉の肉薄して登るに及び、城|遂《つい》に抜かれ、凱と程暹《ていせん》、兪※[#「王+其」、第3水準1−88−8]《ゆき》、趙滸《ちょうこ》等皆|獲《え》らる。これ実に此《この》年《とし》十月なり。
十二月、燕王河に循《したが》いて南す。盛庸兵を出して後を襲いしが及ばざりき。王遂に臨清《りんせい》に至り、館陶《かんとう》に屯《たむろ》し、次《つい》で大名府《たいめいふ》を掠《かす》め、転じて※[#「さんずい+文」、第3水準1−86−53]上《ぶんじょう》に至り、済寧《せいねい》を掠《かす》めぬ。盛庸と鉄鉉とは兵を率いて其《その》後《のち》を躡《ふ》み、東昌《とうしょう》に営したり。此《この》時《とき》北軍|却《かえ》って南に在《あ》り南軍却って北に在り。北軍南軍相戦わざるを得ざるの勢《いきおい》成りて東昌の激戦は遂に開かれぬ。初《はじめ》は官軍の先鋒《せんぽう》孫霖《そんりん》、燕将《えんしょう》朱栄《しゅえい》、劉江《りゅうこう》の為《ため》に敗れて走りしが、両軍|持重《じちょう》して、主力動かざること十日を越ゆ。燕師いよ/\東昌に至るに及んで、盛庸、鉄鉉|牛《うし》を宰して将士を犒《ねぎら》い、義を唱《とな》え衆を励まし、東昌の府城
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