れは前定的運命を其赤[#(ン)]坊が負うて居るのです。また同じ赤[#(ン)]坊でも器量良く生れるのも、器量悪く生れるのもあります。誰も美しく生れたいと思つて生れたものも無く、醜く生れたいと思つたものも無い、天然自然に親にあやかり、又は先祖にあやかり、他の者にあやかつて生れるだけの事ですが、美しく生れたものは其の美しく生れたために、醜く生れたものとは自然に異つた運命を有する訳になります。ですから是は運命前定にちがひ有りません。
 鄭伯のやうに生れ方が普通で無かつたために、奇妙な運命に絡まれた人もあります。鄭伯は寤生と云つて、(母の眠つてゐた間に生れた、即ち眠り産であつたといふ説と、逆さ子で難産であつたといふ説と二説ありますが)兎に角に母の気持を悪くした生れ方をした人ですが、其は勿論其の嬰児が特《わざ》と然様した訳でも何でも有りません。ところが母は其の気持の悪かつたために、嫡子で有るに関らずこれに対して愛が薄くなるのを免れませんでした。そして其為に後から生れた弟の方を愛して、弟の方へ国を譲りたいやうな意《こゝろ》が母に起りました。そこで大変な騒動が起り、干戈を動かすやうな事が出来た事が古い
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