。これは中々争うことの出来ない真理さ。しかも物理学上の明晰なる理だよ。イイカネ、例に挙げたものを能く能く考えて貰いたいのサ。ひとつもこの原則に撞着矛盾するものはない。ソコデ何故に物はかく螺線的運動をするのだというのが是非起る大疑問サ。僕がこの疑問に向ッて与うる説明は易々たるものだよ。曰《いわ》くサ、「最も障碍《しょうげ》の少き運動の道は必らず螺旋的なり」というので沢山サ。一体運動の法則を論じて見れば一点より他点までに移る最近径は前にもいッた通り直線に極《きま》ッてるのサ。ダガ物は直線に進まないよ。直線に進まないのではないが、螺旋をして行く場合には直線にも進むが即ち前にもいッた所の直線的有則螺旋サ。分ッたかネ。たとえば矢が弦を離れてからぐるぐると風を切てまわりながら直線に進む所が近い例サ。あれは即ち直線的に螺旋線を空中に描いてるのだよ。あの矢の鏃《ね》をいろいろに工夫するのだがネ、どうしても雁股《かりまた》はよくいかない。何故というのに雁股は僕の所謂《いわゆる》最も障碍の少きは螺旋的運動なりという原則に反対しているからだ。矢が能く飛ぶには色々の原因もあるがまず第一に螺旋規則に従うからだよ
前へ
次へ
全16ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
幸田 露伴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング